柱
柱
ファイバーモデル
柱部材は両端ファイバー梁要素にモデル化します。モデルの仮定条件を以下に示します。
■部材は複数の微小断面(以降、セグメントと称します)の集合とし、平面保持の仮定が成立するものとします。
■各セグメントは一軸の構成則(応力-ひずみ関係)を持ち、セグメント間に相互作用はないものとします。
■せん断剛性は通常の部材要素と同様に決定し、モーメント・軸力との相関は考慮しません。
■部材フェイスを危険断面位置(塑性ヒンジ発生位置)として応力を評価します。
■指定により弾性解析を行うことが可能です注1)。
ファイバーモデル計算方法(軸、曲げ)
断面内のひずみは軸方向ひずみ、y軸周り曲率、z軸周り曲率の3次元(3成分)で表されます。説明を簡略化するために、2次元(2成分)で図示すると下図のようになります。各セグメント位置でのひずみは、平面保持の仮定に従って軸ひずみ(ε)と曲率(φ)から求められます。
$N$:危険断面位置の軸力
$M$:危険断面位置の曲げモーメント
$ε$:軸ひずみ
$φ$:曲率
$ε_s$:鉄筋ひずみ
$ε_c$:コンクリートひずみ
各セグメント位置のひずみが決定されれば、上図のように各セグメントの構成則からひずみに対応するヤング係数が求められます。各セグメントのヤング係数と断面積を、下式のように積分して断面性能を求めます。
$EA$:断面全体に関するヤング係数×断面積
$ES$:断面全体に関するヤング係数×断面1次モーメント
$EI$:断面全体に関するヤング係数×断面2次モーメント
$_sE$:各セグメントのヤング係数
$_sA$:各セグメントの断面積
$_sL$:各セグメントの断面内原点位置(図心)からの距離
上式によって求めた危険断面位置での断面性能を用いて、部材全体の剛性を求めます。
部材は、塑性化領域の指定をしない場合は軸方向に2つのファイバー領域に分割、塑性化領域の指定をした場合は中央に弾性要素を含んだ3つのファイバー領域に分割してモデル化します。両端の非線形のファイバー領域では、危険断面位置で求めた断面性能が均等に分布すると仮定します。各ファイバーの領域中の剛性は一定とし、材全体の剛性は各領域の剛性が直列に連結したものとして求めます。
両端の塑性化領域の1領域分の剛性マトリクスを下式のように作成します。説明の簡略化のため、2次元要素としてのマトリクスを示します。<>括弧は、領域端回転角と軸力の相関性を表す項を示しています。
$_xF$:軸力
$_zF$:せん断力
$_yM$:曲げモーメント
$l$:部材長
$_xδ$:軸方向変位
$_zδ$:せん断方向変位
$_yθ$:回転角
上記のマトリクスを2領域分求め、弾性領域がある場合はさらに弾性領域を結合した要素内全体剛性マトリクスから、うち点2点に関する自由度を方程式から消去(マトリクスの縮約)し、両端変形を未知数とする梁要素としての剛性マトリクスを求めます。この後、通常の梁要素と同様に剛域変換・材端ばね変換を行い、最終的な要素剛性とします。各ファイバー断面の例を以下に示します。
ファイバー断面の設定
ファイバー断面における分割数は、以下のように設定されます。
RC断面
歪が大きくなる縁に対して分割を細かくする対数分割により、9分割します。
対数分割は以下のようなロジックとなります。
* 基準となる位置から、log(2), log(3), log(4), … と対数の引数を+1ずつした距離離れた位置を分割位置とする。
* 基準となる位置は、偶数分割の場合は断面中心(座標0)、奇数分割の場合は断面中心 ± log(2) / 2 が基準となる。
【偶数分割の場合】
断面分割位置は、0, log(2), log(3), log(4), …
【奇数分割の場合】
+方向の断面分割位置は、- log(2) / 2, - log(2) / 2 + log(3), -log(2) / 2 + log(4), …
-方向の断面分割位置は、 log(2) / 2, log(2) / 2 - log(3), log(2) / 2 - log(4), …

矩形断面

円形断面
鉄骨断面
パイプ型は等分割で16分割します。パイプ型以外は等分割で7分割します。

H型断面

CFT 角型断面

CFT 円形断面
分割要素の復元力特性については、鉄筋および鉄骨はバイリニアモデル、コンクリートはNewRcモデルとして評価します(ただし、NewRCの適用範囲であるFc60を超える強度、もしくはユーザー定義コンクリートの場合はBilinearの骨格曲線に対となります。適用範囲外のため、関数の形状が異常となるためです)。非充腹SRC柱については鉄骨弦材を分割断面としてモデル化し、ウェブ材はモデル化しません。第1折点においては、鉄筋および鉄骨の場合は圧縮・引張側ともに材料強度を1.1倍して断面積を乗じた値、コンクリートの場合は圧縮側で設計基準強度(Fc)に断面積を乗じた値を採用します。また、剛性低下率(α)はいずれも1/1000とします。
コンクリートの応力-ひずみ関係にはNewRCモデルを用います。
なお、コンクリート強度の計算にはコンファインド効果は考慮せず、以下の計算によりAおよびDを求めます。以下の数式において、応力度、ヤング係数の単位系は
$kg/cm^2$ を用いています。
コンクリートの応力-ひずみ関係 :
$
\frac{σ_c}{_ cσ _{cB}} = \frac{AX+(D-1)X^2}{1+(A-2)X+DX^2}
$
$_c \sigma _{cB}= \sigma _p$
$ \sigma _p = 1.0 _c \sigma _B$
$X = \frac{ε_c}{ε_c0} 、 A = \frac{E_cε{co}}{_ cσ _{cB}} 、 K = \frac{_ cσ _{cB}}{σ_p}$
$ \epsilon _{co} = \epsilon _o$$ \epsilon _o = 0.5243(_c \sigma _B)^{1/4} × 10^{-3}$
$E_c = 4k(_c \sigma _B/1000)^{1/3} × 10^5 × (γ/2.4)^2$$ k = 1.0$
$D = α + β_cσ_B$$α = 1.50$
$β = 1.68 × 10^{-3}$
$σ_c,ε_c$:コンクリートの軸方向応力およびひずみ
$_cσ_B$:コンクリートのシリンダー強度
$σ_p$:プレーンコンクリートの強度
$ _cσ _{cB}$:コンファインドコンクリートの強度(= $_cσ_B$)
$ε_{co}$:コンファインドコンクリートの強度時のひずみ
静的解析時には各分割断面の履歴は逆行型とし、動的解析時には鋼材は標準型、コンクリートは原点指向型としてモデル化します。
M-N相関耐力曲線を以下に例示します。本例は下図のファイバーモデルの断面解析結果を図化したもので、引張側を正、圧縮側を負として表示しています。
ファイバーモデルの塑性率について
本プログラムでは、塑性率の計算方法を以下の3つから選択できます。
(1) 塑性率基点歪みにより計算する方法
本手法ではセグメント(分割断面)の最大ひずみが塑性率基点ひずみを超えた時点を部材としての塑性率基点と見なします。いずれかのセグメントのひずみが塑性率基点ひずみを超えた時点の曲率を、断面全体の塑性率基点曲率として設定します。塑性率基点ひずみのデフォルト値は、RC部材の場合では引張0.01、圧縮0.005、鉄骨部材の場合では引張・圧縮ともに0.01としています。また、図心位置(初期剛性において、1点を加力した場合に断面に曲率が発生せず、軸ひずみのみが発生する点)に軸力が作用するものとして計算します。
塑性率は、最大応答曲率/塑性率基点曲率で計算されます。 この計算方法の場合、曲げ塑性率と軸塑性率は同じ値になります。 また、塑性率が1を下回る場合は評価されません。
この方法は、十分大きな縁歪みを設定することで、塑性率基点1の時点を最大耐力として定義したい場合に有用です。
一方、塑性化を許容し、塑性率をクライテリアとして評価する場合には、一律の縁歪みであらゆる軸力状態の降伏点を共通に設定することは難しいため不向きです。その場合は、(2)または(3)を選択するほうが適切です。
(2) 重み付け平均塑性率による計算方法
ファイバー断面における各分割断面の塑性率に対し、モーメントに対する寄与率によって重み付した値を用いて塑性率基点を設定します。下式によるJmが1.0以上となった時点の回転角を塑性率基点として塑性率を計算します。
この方法では、中立軸から遠い断面ほど歪が増加したときの全体のモーメント上昇に与える寄与が大きいことから、寄与が大きい断面の多くが塑性化する状況に至ったタイミングを部材が塑性化したタイミングとみなす、ということを意図しています。 本計算法法では、二軸曲げであったとしても縁のある一定領域が塑性化したタイミングが塑性率基点になり説明性の高い評価方法となること、曲げ塑性率と軸塑性率が別々の値として算出されることが利点として挙げられます。
曲げ剛性に与える寄与により重みづけしていることで、あらゆる軸力状態で顕著に剛性低下が生じた時点が塑性率基点となることから、1より大きな塑性率をクライテリアとする場合に向いています。
また、この方法の場合、塑性率基点となるステップの曲率に対する最大応答曲率を用いるか、塑性率基点たわみ角に対する最大応答たわみ角を用いるか選択することが可能です。
一般に、曲率は変位の2階微分、たわみ角は変位の1階微分のような関係になるため、曲率のほうが局所的に大きな応答が生じやすく、塑性率が大きくなりやすい傾向にあります。一方たわみ角は、層間変形角と比較的近いオーダーとなるため、曲率に比べて極端な塑性率が発生しにくくなります。
$J_m$:曲げ塑性率基点評価式
$A$:分割断面断面積
$x$:分割断面断面内座標
$x_n$:中立軸位置
$σ_y$:分割断面降伏応力度
$ε_x,ε_y$:分割断面歪み
$μ$:分割断面の塑性率


軸力の違いによる塑性率基点時断面塑性化状況の例
(3) 降伏発生時を塑性率基点にする方法
いずれかの分割断面が塑性率1を超えた時点を塑性率基点として塑性率を計算します。 鉄筋降伏やコンクリート圧壊、鉄骨の縁降伏発生時が塑性率1となるため、弾性限耐力をクライテリアとする場合に向いています。
塑性率は、最大応答曲率/塑性率基点曲率で計算されます。 この計算方法の場合、曲げ塑性率と軸塑性率は同じ値になります。 また、塑性率が1を下回る場合は評価されません。